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東京高等裁判所 昭和33年(ラ)445号 決定

静岡相互銀行

事実

本件競売期日は昭和三十三年六月二十七日と指定されていたところ、債権者たる抗告人内山末一郎と債務者たる抗告人服部淳一の両者間に、本競売手続の基礎たる債権の弁済に関し、現に進行中の示談が近く成立する段階にあるから、一応競売期日延期の申請をなし、もつて若干の時間的余裕を得て事件の一層適切な解決をなすべく合意し、これに基いて原裁判所に対し、前記競売期日の延期方を申請した。

しかして、従来原裁判所においては、示談による適切な解決のため事件当事者の合意に基いて競売期日の延期申請があるときは、特別の事情のない限りさらに新期日を定める慣行であつたところ、本件については何らの予告も注意もなく卒然としてこれを変更し、抗告人等の期待、信頼を裏切り、全く抗告人等の意思、希望を無視して前記延期の申請に拘らず、右期日に競売を実施した。

本件の場合は、前記のように、競売手続進行の基底をなす請求債権の弁済に関して当事者間に即時確定的な内容の取極めは未だ成立していないが、近くその成立が期待される段階にあるのであるから、これは当事者の示談による自主的解決によらせるのが至当であり、このことは民事訴訟法第百三十六条の精神からも窺われるところである。

以上の理由により、原裁判所が当事者の意思を無視して競売を強行したのは不当であるから、これに基く本件競落は許すべからざるものであると主張した。

理由

本件記録並びにこれに編綴されている抗告人ら提出の競売期日延期願、債権者株式会社静岡相互銀行の不動産任意競売申立書に徴すれば、次の諸事実を認めることができる。

すなわち、抗告人内山末一郎は抗告人服部淳一を債務者として昭和三十三年一月二十四日本件不動産の任意競売を申立てたので、原裁判所は昭和三十三年一月二十四日競売開始決定をなし、競売期日を同年三月二十四日と指定したところが右期日当日抗告人等から書面による示談進行中を理由とする期日延期願が提出されたので、原裁判所は右期日を変更して昭和三十三年六月二十七日と指定した他方、昭和三十三年四月二十六日株式会社静岡相互銀行は抗告人服部淳一を債務者として、本件不動産について任意競売の申立をなした。そこで原裁判所は、抗告人等から、同年六月二十四日再び示談進行中を理由とする競売期日延期願が提出されたけれども、これを許さず、右期日を開いて本件競売を実施した右の諸事実によれば、原裁判所は本件抗告人等の示談進行中の事実を考慮して一旦その延期願を許容し、三月余の余裕をおいて新たに期日を指定したものであり、その間利害関係を有する静岡相互銀行の競売申立があつたのである。

競売期日については利害関係人全員の合意があれば格別、本件においては静岡相互銀行は右変更に合意していないのであるから、抗告人両名の期日の変更を許すかどうかは原裁判所の裁量に委せられ、裁判所としてはなるべく早く競売手続を進行させるのが義務であるから、原裁判所が抗告人両名の本件競売期日の変更申立を許さなかつたとしても何ら違法または不公正な点はない。

なお、抗告人等は、右延期申請の却下について、原裁判所はこれを抗告人等に告知しない違法があると主張するけれども、右は職権の発動を促す申立にすぎないから、必ずしも明示的に却下の裁判をなしこれを申立人に告知する義務があるものではない。従つて、原裁判所が抗告人等の期日変更申立についての却下の裁判をなさずに、これを抗告人両名に告知しないとしても、違法ということはできない。

よつて原決定は相当で、本件抗告は理由がないとしてこれを棄却した。

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